地 元 の 声
Home地元の声>わが町・松島のスーパー堤防構想への思い

わが町・松島のスーパー堤防構想への思い

高田信一
株式会社タカタ保険事務所 代表取締役
コラムニスト

 上の写真を見てみよう。写真右側・中川放水路の対岸に首都高速の平井大橋出口が見える。したがって、遊歩道のある土手を挟んで左側がわが町のある松島、西新小岩周辺である。
 この写真では中川の水面の高さが土手の裾を走る車の屋根より上であるのが一目瞭然だ。見方を変えれば、左のビルの二階をはるかに越えている。すなわち、中川は地面より高いから、この低い地面に住んでいる私たちは、もしこの中川の堤防が無かったらいわば水上生活者ならぬ水中生活者ということになる。
 万一、中川の満潮時に大地震が発生してこの土手が大きく崩壊したら、大量の水が怒濤のごとくわが町に流れ込んでくるに違いない。放水路に近い場所では軒先のあらゆる物が、あるいは駐車場に止めた車が、水の勢いに押されて次から次へと流されてしまうかも知れない。勿論、屋外に居た人々は逃げるどころか、あっという間にこの滝のような洪水に呑み込まれてしまうだろう。  
 一般に堤防の決壊は津波より恐いという。津波は地震が発生してもすぐにはやって来ないから、津波予報などの情報の伝達が迅速に行われれば、地域の住民には避難する余裕ができる。しかし、堤防の決壊は待ったなしである。
 そこで、もし大地震が起きたら松島に住む私たちは、手元の火を消してから次に何処に避難しようかと考えたとき、遠くへ逃げるよりまず高い建物ということになりかねない。やがて川の水が松島全体に行きわたったとしても、その水深は平均2m前後で大人の背丈を越えると言われている。だが、私たちが高い建物に避難したとしても、あの阪神大震災のような広域火災が発生したら今度はどうするか。もはや区内の消防自動車は火を消しに出動はできないだろう。大火災になる前に、洪水が消防自動車に代わってうまく火を消してくれるだろうか。
 先日、私はこうした地元の不安を払拭するために行動しようと立ち上がった民間ボランティアの人たちと、既に足立区の新田地区で始まっているスーパー堤防の工事現場を見学した。<スーパー堤防>というのは、河川の水位より高い盛土で構成された幅の広い堤防用地を確保して、水辺の環境を整え、災害時の安全性の強化を図った堤防のことである。
 大地震が起きてもびくともしないし、広域火災などが発生すれば避難場所にもなる理想の大堤防である。今まで写真などで見たかぎりでは、確かに素晴らしい構想だが本当に実現できるものなのか私自身懐疑心の方が強かった。だが、こうして実際に広大な工事現場を目の当たりにすると、私たちの町でもやろうと思えばできるかも知れないと、夢が現実味を帯びてくるように感じるから不思議だ。
 だが一方で、松島界隈は地形的にも足立区の現場とは比較にならないほどの住宅や商店の超過密地帯だ。住民の移転などこの構想の実現までにはクリアしなければならない問題が山積みである。何よりも地域住民との十分なコンセンサスの形成が不可欠だ。
 しかし、わが町へのスーパー堤防の実現にこの先何十年かかろうとも、いま皆で知恵を出し合うことが決して無駄な徒労に終わるとは思えない。それは、私たちの孫、ひ孫の時代にこの松島を守るためでもある。ただし、それまでに東京に大地震が襲ってこないのを祈るばかりだが...。
足立区新田地区スーパー堤防構想概念図(国土交通省荒川河川事務所発行資料より)