活動の年次記録

多摩川沿いでも進むスーパー堤防と一体化した街づくり見学会

平成16年9月3日

<スーパー堤防見学会>

安全・眺望・親水性を求めて

多摩川沿いでも進むスーパー堤防と一体化した街づくり


写真1  説明を受ける見学者


写真2  多摩川下丸子地区スーパー堤防模型


 9月3日、多摩川・下丸子地区で国土交通省京浜河川事務所と三菱商事を中心としたグループが共同で事業化を進めているスーパー堤防建設と街づくりの見学会が行われた。
 この日は25名を越える参加者が6棟、960戸の住宅建設の進む「ザ・リバー・プレイス」の建設現場事務所に集合した。

 最初に本NPOの石川理事長から、超過洪水(計画の規模を大きく超えるような洪水)に備えて建設されている多摩川沿いのスーパー堤防と本NPOが推進しようとしている荒川下流の海抜0メートル地帯の木造密集住宅地域でのスーパー堤防とは大分雰囲気を異にするが、その上に新しい街づくりを行おうとする目的は同じであり、見学を通じて違いを認識すると共にご説明を伺って知見を深めていただきたいとの挨拶があった。

 次に、京浜河川事務所の江口建設専門官の挨拶の後、金森係長から多摩川は首都圏を流れる急流であり、かっては堤防決壊により災害を引き起こしたことも一再ならずあったこと、このため2001年3月「多摩川水系河川整備計画」を定め、上流の日野橋から河口までの40km(両岸で80km)を対象にスーパー堤防を建設することとし、このうち氾濫した場合予想被害の大きな丸子橋から河口までを「推奨区間」、その他を「候補区間」として、出来るところからスーパー堤防建設を進めていること、この下丸子地区ではいくつかの工場移転跡地を利用して1.2kmにわたり民間ディベロッパーとタイアップしてスーパー堤防建設とその上での街づくりを進めていること、既にキャノン本社下流側では野村不動産他2社、総合地所他4社との共同での建設が完了、キャンノン本社部分は既設の建物があったため裏法面のみの盛土を実施したこと、一方、本日の見学会の対象であるキャノン本社上流部分では三菱商事を中心とするグループとの共同作業に向けた話を平成12年4月から開始し、盛土工事を2001年11月から始め、堤防は既に完成しているとの説明があった。
 なお、多摩川の堤防は地盤そのものが高いため堤防の高さも約3.5mと低く、スーパー堤防幅(30h)も100m前後と比較的短くなっている。下丸子地区全体で対象面積は7.2ha、総盛土量は18.6万立米だったとの説明があった。

 次いで、ディベロッパーを代表して三菱商事の川野主任から「ザ・リバー・プレイス」の概略とスーパー堤防とのタイアップ建設のメリットについて説明があった。この地は元来三菱自動車多摩川工場があったところだが、合理化により閉鎖・売却することになり、跡地の一部4.8haを1999年に購入した。そこに「未来のふるさと」、「100年都市」をコンセプトに28階建てタワー3棟、13階建てコート3棟、総戸数960戸の街づくりをスーパー堤防建設にあわせて行なっているもので、住宅建設はおおむね完了、本年9月末には一部入居も始まり、来年3月には全住戸が入居することになっている。
 スーパー堤防建設と併せ行なったことのメリットは洪水に対し安全なこと、視界が開け素晴らしい眺望が得られること(このためすべての建物の1階はエントランスと電気・機械室に当て、住居は2階からとなっている)、バリアフリーで河川敷にアクセスでき、親水性を持った住宅となっていることが上げられるとの説明があった。

 その後、、ウエストタワー屋上に登り全体を俯瞰した後、堤防に出て移設に苦労した桜並木と遊歩道となる堤防の見学を行なった。なお、この遊歩道はキャノン本社裏までで、その先の野村不動産、総合地所の開発地域ではガス橋に続く自動車道となっており、川へのアクセスに問題を残している。
 また、この自動車道の植栽により川沿いの1階部分は目隠しされ、完全に視界が失われている。ただ、総合地所開発地区に長谷工が建設した東京サー・ハウス(見学会終了後別途外部から見学)は建物裏側のスペースに大きな池と150m余りのスーパー堤防内地の斜面を利用した川を配し、その周辺にローマの円形劇場を模したイベント広場や、緑の公園を設けるなど傾斜地を巧みに活用している点が注目された。駐車場棟を設けず、平面と地下への3段駐車で中央に広い空地を取り、そこを緑化することで安らぎをもたらすことを狙った「ザ・リバー・プレイス」の計画と共に、今後本NPOが対象と考える地域での街づくりに大変参考になる見学会となった。

 なお、当日の見学会での質疑応答はつぎの通り。

Q.スーパー堤防盛土と住居建設を同時併行して行なったとのことだが、盛土の下を駐車場などに利用しているのか。
A.利用していない。

Q.建物の配置は川からの風の流れ込みなどを配慮して行なったものか。
A.タワー棟は方位を考慮し、真南に向くように配置した。その他の住居は少しでも多くの住居から川が見えるように配慮した。ただし、風に対するシミュレーションは行なった。

Q.スーパー堤防区域に建設することで、建蔽率などの優遇措置はあったのか。
A.そのような措置はなかった。

Q.環境アセスメントは行なったのか。ヒートアイランド現象に対する対策は行なったのか。
A.マンション事業を行なうとき、1000戸以上だと環境アセスメントは義務付けられるが、本プロジェクトは1000戸未満なのでその義務はなかった。ただ、自主的にアセスメントは行なった。ヒートアイランド対策としては中央に広い空地を設け、そこを緑化するなどの対策をとっている。

又、参加者からは「川の存在が一つのコミュニティの住環境形成に有用なものと意識した人々によって作られていく街づくりを見て興味深いものがあった」との感想が寄せられている。

以上

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