活動の年次記録

加藤先生が地域安全学会論文賞

平成19年6月20日

加藤孝明先生が地域安全学会論文賞を受賞されました!

-創設以来三人目の受賞者となる快挙に!-

 昨年来新小岩地区でのワークショップをご指導いただいた、当会の会員である東大の加藤孝明先生がこのほど地域安全学会論文賞を受賞されました.
 この賞は1999年に創設された賞ですが,これまでに東京大学の目黒先生,京都大学の清野先生のお二人しか受賞されておらず、防災科学に取り組むポスト若手研究者にとって大変価値のある賞で、加藤先生は光栄ある三番目の受賞者となったわけです。これも日頃からの加藤先生の着実な研究の成果が評価されたわけで、当NPOにとっても大変喜ばしいことであり、心からお祝いを申し上げたいと存じます。
 なお、地域安全学会とは,1986年に設立され,防災研究に関係するさまざまな分野の研究者が活発に活動している学会です.この受賞についてワークショップのファシリテーターを務めていただいた首都大学東京の市古先生から、お祝いと共に論文の概要を紹介するお手紙をいただきましたので、ここでご紹介したいと思います。


地域安全学会論文賞を受賞された加藤孝明先生の授賞式


         -市古太郎 (首都大学東京)-

 2007年5月に加藤孝明先生が「建物単体データを用いた全スケール対応/出火確率統合型の地震火災リスクの評価手法の構築」で地域安全学会論文賞を受賞されました.加藤先生は,地域安全学会初代会長である伊藤滋先生の下で卒業論文の指導を受けられて以来、小出治先生,高野公男先生,山崎文雄先生といった日本の防災研究を代表する方々の下で,市街地の震災リスク,防災都市づくりに関する研究に従事されてきましたが,その蓄積が評価されたものと言えましょう.

 

 火災被害のリスクはこれまで,出火のリスクと延焼のリスクという独立した確率の組み合わせで評価されてきました.たとえば,東京消防庁の「延焼シミュレーション」は後者を扱ったシステムで,このシステムでは出火点をコントローラーが故意に設定することになっています.実は私自身,まちづくりの現場で消防庁に協力してもらって延焼シミュレーションを見せることが多いのですが,地域住民へのインパクト,関心を引くには大変効果的であるものの,「出火点の設定」には常に気をつかっています.

 加藤先生の論文は,この2つのリスクを「建物クラスター生成」という建物の密集度を表現するモデルで統合化し,出火から延焼までを「地震火災リスク」として統合的に取り扱った点に特質があります.もちろん,論文中で展開される個々のサブモデルについても加藤先生のこれまでの研究成果を基に,ていねいに論証をされており,浅学の自分にはここだけでも大変勉強になったことも特筆しておきたいと思います.

 その中でも,私が興味深く感じたのは,①不燃領域率などの「延焼危険を簡便かつ大局的に捉える」市街地指標と,②1棟ごとに延焼シミュレーションを実施し,その期待値としてリスク評価する手法(これは①の方法と比べて大変な計算時間を要します)の中間に開発した手法が位置する,という点です.それは,文部科学省地震調査推進本部が出している「30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」と同じように,例えば「30年以内に地震による火災被害にあう確率」を求める方向が見えてきたことを意味します.

 用いる建物データによる誤差評価など,技術的な課題はありますが,本研究成果が地震火災被害の軽減化に大きく寄与していくことは間違いないと言えましょう.心より受賞をお慶び申し上げます.

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