輪中会議とシンポジウム

平成15年11月開催のシンポジウム議事録

地元の声で荒川・中川沿いにバンクタウンの建設を!

平成15年11月5日開催

議論するパネラーと熱心に聞き入る参加者

当NPOと葛飾区共催のシンポジウム「荒川・中川等の沿川を東京一番の街に、‐スーパー堤防と街づくり‐」が11月5日、テクノプラザかつしかで開催された。

当日は生活構造研究所、松川所長が司会を務め、まず徳倉、当NPO副理事長が本NPO設立の趣旨とこのシンポジュウムの狙いを説明、続いて青木葛飾区長から本NPOの活動は葛飾区都市計画マスタープランとも合致するものであり一層の発展を祈念すること、このシンポジウムを契機に「スーパー堤防と街づくり」への関心が高まることを期待するとの挨拶があった。

引き続き、青山前東京都副知事による「川とまちの江戸・東京史」と題する基調講演が行なわれた。この中で青山さんは1000年前には利根川も荒川も東京湾に注いでいたが、江戸時代に入って徳川幕府が利根川を東に移し、荒川を西に移して物資の集散、流域への灌漑、河岸の発展に役立てたこと、ただ荒川は秩父からの材木の輸送のため上流の入間川の水量を増やしたことや浅間山の大爆発による川底の上昇で水位があがったため、大雨による水量増加をコントロール出来ずにしばしば洪水を起こしたこと、東京になってからも明治43年に大洪水が起こり、これを契機に荒川放水路が建設され大正時代になってやっと江戸時代からのツケが解消されたこと、それもつかの間その後沿川での産業の急速な発展による地下水の汲み上げなどで地盤沈下が起こり、戦後のキャスリーン台風、キティ台風などにより多くの被害を出した。その後堤防が整備され大きな被害がなく今日に至っているものの都内ではこの東部地区を中心に195万からの都民がAP2.1m以下の地に住んでおり、川面は海面より更に高いだけに一旦堤防が直下型地震などで破提するとその被害は計り知れないこと、これを防ぐのが既に一部の地域で建設されているスーパー堤防だが、スーパー堤防の建設は同時にその堤防上での街づくりを可能とし、テラスを設けることで水辺に親しむことも可能になっていること、このように水に対する関心を街づくりの上で更に高めることが必要との指摘がなされた。

休憩の後本NPO石川理事長をコーディネーターとするパネルディスカッションが開催された。パネリストは河川の専門家の泊さん(国土交通省荒川下流河川事務所長)、街づくりの専門家成戸さん(帝都高速度交通営団理事、元東京都技監・都市計画局長)、住まいの専門家小谷部さん(日本女子大住居学科教授)、地元葛飾区の振興を考えている実業家信川さん(東京商工会議所葛飾支部・会長)の4氏(発言順)である。

最初に泊さんから東京の街は河川の水位より低いところが多々あるのが特徴で、これらの地域は一旦堤防が決壊すると広範囲にわたり浸水することをビデオで説明、この堤防決壊を未然に防ぐのがスーパー堤防であること、スーパー堤防は荒川下流の流域両岸で60kmの内13%程度が既に完成していることを実例を挙げて紹介、ただスーパー堤防は街づくりと一体で進められるべきことなどの指摘があった。

続いて成戸さんからはこの地域を東京一の街にするためにはまずこの地域の広域的位置づけを知り、その特長を生かした街づくりが行なわれることが必要なこと、東京都の計画ではこの地域はセンターコア周辺の都市環境再生ゾーンにあること、そして「スーパー堤防の整備に合わせた親水性のある緑とオープンスペースの確保・充実」が期待されている地域であることが指摘された。さらに最近の街づくりの大きな流れとして、都市再生緊急整備地域の指定を受け、そこで既存の都市計画制限を排除して新たな都市計画を地域事業者の自由な発想を取り入れて6ヶ月内に決定するという動きがあること、ただこの地域は今のところ都心の7地域に限られており、周辺区は及んでいない。もうひとつの動きは「東京のしゃれた街づくり条例」の制定で、これは密集市街地の再生をたとえ小規模でも住民の合意を得たところから実施し、個性豊かで魅力的な街を創っていこうとするもので、この条例による特典は今後のこの地域の街づくりでも大いに活用してほしいとの指摘があった。更に本NPOは目下いまだ実例のない密集市街地でのスーパー堤防建設をどうやれば進めることが出来るかにつき勉強を続けていることの紹介があった。

小谷部さんからは新しい共同住宅のあり方として今注目を集めている「コレクティブハウジング」について紹介があった。「コレクティブハウジング」では入居者が設計段階からお互いに意見を出し合って住宅の構想を固めていき、出来上がる共同住宅は入居者がそれぞれ独立の住居を持ちつつも、同時に共有の設備(ダイニングや家事室など)を持ち、それを利用して生活の一部を共同化(例えば当番制で居住者全員の食事を作るなど)するもので、そこに新しいコミュニティの結成が可能となること、その第1号が日暮里のかんかんの森に建設されたことが紹介された。

信川さんからは自身が葛飾で経験した数々の水害の恐ろしさ・産業に与える被害の大きさに触れると共に、先般行なわれたスーパー堤防見学会で受けた強烈な印象が述べられた。即ち、この見学会で知ったことは荒川左岸が全くの手付かずの状態であるのに対し、右岸は既に何箇所かスーパー堤防が建設されつつあること、このままでは一旦荒川が増水し、水が溢れると低地の葛飾サイドに全ての水が流れ込むこと、又スーパー堤防の出来ている所と出来ていない所では出来ていないところの被害が倍加する恐れがあること、今望まれることは早急に全ての地域に関係者全員が協力して一気にスーパー堤防を築くことであり、都市再生も都心ばかりでなく周辺もしっかりやってほしいとの強い訴えがなされた。

次いで会場からの質問と応答に移り、次のようなやり取りが行なわれた。

質問1.スーパー堤防建設はダムと同様環境破壊とならないか。又水辺と親しむことが可能か。

回答(泊):確かにスーパー堤防が出来ることで環境の変化が起こるが、これはその上に新しい街づくりがなされるわけで、よく話し合ってより良い環境となるような街づくりを行うことが重要と考えている。また、スーパー堤防が出来れば堤防の高さに街が出来るわけで、水辺に親しみやすい空間が出来るのではあるまいか。

質問2.土地区画整理事業とスーパー堤防の同時施行の進め方につい知りたい。

回答(成戸):現在勉強を進めているのは密集市街地でのスーパー堤防の建設である。スーパー堤防を作るには地盤を強化し、盛土をする必要がある。そのためにはそこに住んでいる人々に一時立ち退いていただく必要がある。その際その地で事業を行なっている人の仮立ち退き先をどうやって見つけるか、その他巻き込まれる人々への影響を最小限にするにはどうしたらよいか検討する必要がある。特に密集市街地には小住宅が多く、これらの人々の減歩率がどのぐらいになるのか、それを少なくするにはどんな手が打てるのか、スーパー堤防と区画整理事業を一体で行なうときに誰が事業者になるのか、地元の負担を少なくするためにどれだけ補助金を引き出せるかなど種々検討中である。

質問3.スーパー堤防建設には時間がかかるのでとりあえず堤防道路面を利用し、緩傾斜堤防が作れないか。又、中川周辺の街づくりについて荒川流域協議会のようなものが作れないか。

回答(泊):道路だけをかさ上げするとその道路に面する人々、使っている人々がその道路を使えなくなる恐れがあるが、そのような問題がないときはその可能性も検討できるのではないか。

流域協議会という名称の組織はないのでどのようなことを想定されているのかわからないが、このようなNPOや地域、地域でいろいろ川のことを考えている方があれば種々御協力申し上げたい。

質問4.スーパー堤防建設に建設残土が使えないか。スーパー堤防を越えて水が流入したとき排水はどうするのか。

回答(泊):建設残土等は既に堤防つくりに利用している。スーパー堤防のみならず一度堤防を越えた水の排水は厄介な問題だが、川の水位が下がったらポンプでくみ出すこと等になると考えられる。

先ほどスーパー堤防建設と区画整理との問題が出たが多少補足したい。平井地区では対象面積が狭いために対象地域の全居住者が仮移転先への移動と完成後元の土地への復帰のため二度引越しを行うことになっている。これに対し広範囲の地域で建設を行なうときには、一部盛り土を行なったところにまず一部の方が移転し(このときは区画整理の換地となり、引越しは一度で済む)、次に移転した人々の土地に盛土を行なうなど、順次これを繰り返していくことも考えられる。但し、この場合最初に盛土をし、移転先に当てるための広い場所があることが前提となる。

質問5.コレクティブハウジングとスーパー堤防をどう結びつけるのか。

回答(小谷部)毎日そこに住んでいる人たちが自分達が住んでいるのはどんなところかを見直し、川という財産をどう生かしていくのか、どんな暮らしをしたいのか、自分達で主体的に自分達の町をどうするのかビジョンを持つことが必要で、そのための一つの考え方がコレクティブハウジングいう考え方である。

質問6.小松川地区の整備状況を見て素晴らしいと思った。花見の時期など多くの人が車で来て楽しんでいるが、このため道が満杯となり違法駐車を警察が容赦なく行っている。折角いいものが出来てもこのようなことが起こるのは困る。

そういった点への配慮もほしい。

回答(石川):良いものが出来るとどうしても人が集まってくる。今のところスーパー堤防が少ないためこのようなことが起こるが、全ての堤防がスーパー提防化すればこのような集中はなくなるので早くそうしたいという点が第一点である。又、悪法といえども法は法という見方がある反面、その都度現場の状況にあわせてやるべきというのも正論である。御意見はそこに住む人、利用する人の素朴な意見であり、これらの人々が協力し合って住みよい街を創っていくべきと考える。

質問7.荒川、江戸川は国により整備が進んでいるが中川は手つかずの状態である。カミソリ堤防は地震には弱い。東京都は来年から下流から耐震補強をするといっているがどれだけ時間がかかるかわからない。おまけに堤防は東京都、道路、公園は葛飾区とわかれており、連携していない。住民の意見は反映しにくい。ついては一度東京都も葛飾区も管理権限を国に預け、国で整備してから返還してもらうことは出来ないか。そんな事例はないのか。住民からみれば国も,都も区も皆役所なのだから。

回答(水川五建所長:)現在中川七曲りの立石地区で製薬会社跡地を利用して葛飾区が公園を整備中で、それにあわせて東京都でスーパー堤防を建設中である。この事業の推進に当たっては東京都、葛飾区が密接な連携をとって行なっている。今後も連絡を密にして行なっていくのでご理解を賜りたい。

質問8.提案だがスーパー堤防建設は単独ではむつかしく区画整理事業と一体で行なう必要がある。問題は資金だが、優先支出法で移転費用を国が出し、道路・公園などの公共施設は地方公共団体が、住民は減歩で対応、街づくりは基本的には組合施行で行なえば関係者の合意は得やすいのではないか。

回答(成戸):区画整理事業とスーパー堤防を合体して行うことのメリットは移転費用がスーパー堤防建設側から出ること、堤防の裏ノリを公共事業に使えることだが、この際住む人に単に安全になる、景観がよくなることだけではなくどんなメリットを与えられるかが問題となる。

又、組合施行で地元の人が納得してもらえればよいが、密集市街地でのスーパー堤防建設の場合には小宅地の権利者も一緒に事業に参加してもらわねばならず、そのとき組合施行で上手くいくのか難しいとも思われる。ただ、ご意見は参考にして更に検討していきたい。

質問9.葛飾区には昔はセルロイドなど全国に発信できる地場産業があったが、今はないように思われる。今後地場産業をどう扱っていくのか。

回答(信川):確かにおもちゃ産業は製造現場が中国に移転し、製造業としては衰退している。ただ、盛んなのは伝統産業である。これは多種多様で、後継者もまずまず残っているので期待いただきたい。

この後信川さんが特に発言を求め、普通なら残り物には福があることになっているがスーパー堤防だけは先にやったものが勝ちだ。スーパー堤防の脇は必ず弱い。短期間で一気に仕上げることが必要である。葛飾住民の皆さん、是非とも御協力いただきたいとの要望があった。

最後にコーディネーターの石川理事長から会場の皆さんの有益な質問のおかげでこの街を東京一番の街にするということを市民の皆さんと行政が心がけねばならないことが見えてきた。本NPOもこの街を東京一番の街にしたいということで地元の皆さんと話し合っていきたいので宜しくお願いしたいとの発言があってシンポジウムは幕を閉じた。

なお、会場には多くのパネルの展示も行なわれ、スーパー堤防設置箇所を示す大地図、過去の水害記録と防止対策の進捗状況、スーパー堤防の説明と建設に伴う街づくりの実施例、中川七曲りの現況と立石地区スーパー堤防建設計画、街づくりのモデル例等が展示され、この地が地震等の災害に襲われた場合に内包している危険性について示唆すると共に、反面それらの問題が解決されたときに開ける発展の可能性をも指し示すものとなっていた。

当日は多くの地元の方を含め300名近くの方が出席し、熱心に討議に耳を傾けると共に、上記のような活発な質問が行なわれるなど、成功裏にシンポジウムは終了した。ここで盛り上がった地元の声が今後具体的なバンクタウン建設推進へと発展していくことが期待されている。

なお、今回のシンポジウムは葛飾区の全面的御賛同を得て、NPO・葛飾区共催という形で行なわれたが、次回は下流の江戸川区での開催を計画している。

以上

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